df876a60.jpg 1916年に当時36歳のヘレン・ケラーは彼女の助手をしていた年下のピーター・フェイガン氏と恋をして結婚しようとした。しかし、家族の反対にあい、駆け落ちまでしようとするが断念してしまった。そして、この出来事から6年後の42歳のときに、ある男性から結婚を申し込まれた彼女が書いた返事がこれである。文中のメイシー先生とはアニー・サリバン女史のことである。

 『身体的障害、抑圧が鎮めることができない原始的本能、心の願い全てが、貴方様の願いに応えたいと弾けんばかりです。若い時から男性の愛情を望んできております。運命はどうしてこれほど奇妙な形で私をもてあそんだのか、どうして自分では満たすことができない身体的能力を持たされ、身が焦がされるのか、思い悩んだ時もありました。しかし、偉大な教師である「時」はその役割を果たしました。不可能なことを求めても仕方ないことが分かりました。女盛りが空しく失われてしまうことを嘆いても仕方ないことも。夫婦生活のない一生を送ることが私の運命であると感じるようになり、この運命を受け入れるようになったのです。
 人間とはどういうものかご存知でしょう。普通の心の機微はご承知でしょう。しかし、見えない、聞こえない、きちんと話せないという三重苦の重さをお分かりになってらっしゃるでしょうか。私の本を読まれたに違いありませんが、誤った印象をお持ちになったかもしれません。不平不満を活字にはしないものです。自分の傷をさらけ出して、無遠慮な連中にジロジロ見られるようにはしないものです。素晴らしい思想、笑顔の裏に自分のぶざまさ、無力さをできるだけ隠すものなのです。活字にしたものから私の実生活を知ることはできません。貴方は見ること、聞くことができます。だから、どこに行くのも連れて行ってもらい、単純なことすらも手伝ってもらわねばならない暮らしが大変やっかいなことがお分かりにならないでしょう。お手紙を拝読して、私のおかれた状況、不便さを痛感しました。お分かり頂けないかも知れませんが、貴方の人生と私の人生とのほとんど想像を絶する違いが私には分かるのです。

 普通の男性の充実した人生を送っていらっしゃる御様子です。私は内向きに生きて参りました。全ての女には子供っぽいところがあると申します。実際、私には子供っぽいところがたくさんあります。実世界を私は知らないと親友たちは申します。ある意味で、私の人生は非常に孤独なものでした。本が最も親密な仲間ですから。家事についても私は物思いに沈んだ傍観者に過ぎません・・・こういった事情にある私と結婚したいという貴方のお気持ちには驚かされます。私が夫にとってどれほどの逃れようのない重荷になるかを考えただけで、私の心は震えます。

 ・・・時はその役割を果たした、女盛りが空しく失われてしまうことを嘆かなくなったと申し上げました。しかし、強いられた、暗い諦めの心境をほのめかしているのではありません。メイシー先生は、私にとって子供時代から暗闇の中で明かりでいらっしゃいました。そのメイシー先生の賢明で愛情あふれるご指導で、天性の強い性的衝動に私は立ち向かい、このエネルギーを共感、仕事に向けて参りました。神から授かった生殖的衝動を抑え込もうとすることなど夢にも思ったことはありません。私の心のエネルギーを、困難な課題の達成、私よりも恵まれない人たちへの奉仕に、全部注いだのです。その結果として、幸せな人生を送ってきています。そして願わくんば、人の役に立つ人生を 』

※ Herrmann, D. 1998, "Helen Keller: A Life"より。
※邦訳未出版。この訳は『障害・障害学の散歩道』の長瀬修氏のものを引用さていただきました。

 感謝

   ・・・次回へ続く・・・


◆ 写真 ◆
1959年、米ブロードウェーの劇「奇跡の人」で、ヘレン・ケラーの教師役を演じたアン・バンクロフトさん。

◆ ANNE BANCROFT ◆

 映画「奇跡の人」(1962年)でアカデミー主演女優賞を受賞、「卒業」(67年)ではミセス・ロビンソンを演じた米国の演技派女優、アン・バンクロフトさんが6日、がんのためニューヨークの病院で死去した。73歳だった。AP通信などが伝えた。
 ニューヨーク・ブロンクス生まれ。9歳の時に将来は女優になる夢を語り、ニューヨークで演劇を学んだ後、ハリウッドの「ノックは無用」(52年)でデビュー。だが人気が出ず、ニューヨークのブロードウェーで舞台女優に転身、その後再び映画界に戻り「奇跡の人」に出演。視覚障害などを抱えたヘレン・ケラーの教師役を好演した。
 青春映画の名作として知られる「卒業」では主人公のダスティン・ホフマンを誘惑する年上の女性を演じ、話題となった。(ニューヨーク 2005年6月7日 共同通信による)

◆ 出演作 ◆

1952年 「ノックは無用」
1953年 「TONIGHT WE SING」「ゴールデン・コンドルの秘宝」
     「THE KID FROM LEFT FIELD」
1954年 「GORILLA AT LARGE」「ディミトリアスと闘士」「THE RAID」
1955年 「紐育秘密結社」「A LIFE IN THE BALANCE」「THE NAKED STREET」
     「シャロンの屠殺者」
1956年 「WALK THE PROUD LAND」
1957年 「NIGHTFALL」「THE RESTLESS BREED」
     「THE GIRL IN BLACK STOCKINGS」
1962年 「奇跡の人」アカデミー主演女優賞
1964年 「女が愛情に渇くとき」
1965年 「いのちの紐」
1966年 「荒野の女たち」
1967年 「卒業」
1972年 「戦争と冒険」
1975年 「THE PRISONERS OF SECOND AVENUE」「ヒンデンブルグ」
1976年 「リップスティック」「サイレンムービー」
1977年 「愛と喝采の日々」「ナザレのイエス」
1980年 「愛と食欲の日々」「エレファントマン」
1983年 「メル・ブルックスの大脱走」
1984年 「ガルボトーク/夢のつづきは夢……」
1985年 「アグネス」
1986年 「'NIGHT MOTHER」「チャーリングクロス街84番地」
1988年 「トーチソングトリロジー」
1989年 「ハリウッド、夢、夢物語」
1991年 「ブロードウェイ・バウンド」
1992年 「ハネムーン・イン・ベガス」「ラブ・ポーションNO.9」
1993年 「心のままに」「冷たい月を抱く女」
      「アサシン/暗殺者」
1995年 「キルトに綴る愛」「レスリー・ニールセンのドラキュラ」
      「ホーム・フォー・ザ・ホリデイ/家に帰ろう」
1996年 「心の指紋」
1997年 「大いなる遺産」「G.I.ジェーン」
1999年 「アンツ」(声)
2000年 「僕たちのアナ・バナナ」
2001年 「ハートブレイカー」