合衆国には寄付文化があり、貧困の撲滅、医療や教育の充実といった社会的な課題に対し、私的団体及び個人が慈善事業の形でお金を提供している。しかしながら、寄付金額が巨大だからと言って、未来に必要なお金の使い方をしているとは限らない。

今世紀に入ってから教育のためにお金を提供した団体として知られるものには、ビル&メリンダ・ゲイツ(マイクロソフト創業者)、ウォートンファミリー基金(ウォルマート創業者)、エリ&エディスブロード基金(不動産王エリ・ブロード)があり、この3団体で慈善事業上位50団体の寄付総額の25%を占めていた。

20世紀までは、フォード基金、カーネギー基金、ロックフェラー基金といったビックネームが名を馳せたが、これらの基金の寄付に対する精神と志向は今も尊敬に値する。彼らは申込者自らが計画した内容に価値があると認めると、お金のみ提供し、事業達成のための組織運営に関しては自助努力と起業家精神の発揚を願い、事業を通じて地域社会に貢献する人々が創られることを目的とする。古きよき合衆国の健全さを感じさせる。

他方、21世紀の富豪起業家たちによって生まれた慈善団体は、リターンを目的としている。寄付というよりも「投資」と呼ぶ方が適切だ。2008年1月のダボス会議の新しい資本主義へのアプローチというタイトルの基調講演の中で、ビル・ゲイツ氏は「創造的資本主義(Creative Capitalism)」というコンセプトを開陳した。彼は個人の利益を追求した結果、社会をよくすることができイノベーションが進み皆がシェアするパイを大きくしていけるから資本主義は支持されているとし、イノベーションを進めることができる市場原理の力を信じていても、市場の需要(demands)がないところでは貧しい人々のニーズに対応できないと考える。そして、市場原理だけでは貧しい人たちを助けるスピードは遅いので、利益追求と並行して社会から認められること(recognition)を推進力に、市場原理を利用し貧しい人たちを助ける新しい資本主義のアプローチがあってもよいとする。

創造的資本主義(Creative Capitalism)の下では、申込者によって作られた計画は意味を持たず、その慈善事業の目的と期間は投資する側(慈善団体)に決定権を持たせている。人間も組織運営もすべて団体側が効率よくパッケージで提供する。地域社会の人々の連帯(solidarity)よりは、お金を提供する個人の投資動機(incentives)に価値がシフトしている。例えば、チャータースクールへ投資すれば、10年を待たずに、投資額の2倍のリターンがあるのだ。合衆国の教育環境を見ると、チャータースクールの拡大と共に新興富豪起業家たちの慈善団体は、親と教師と学校、そして政府に対してかなり強い政治経済的影響力を持っている。市場原理によって合衆国の教育現場は混乱しはじめていると言われる所以である。

子ら、親と教師、そして地域社会に暮らす人々のために公の学校がり、そのコミュニティから未来を創造する人間たちが世に送り出される。どのような条件下に生まれても、子らが未来にとって等しく大切な存在であることに変わりはない。今風の儲け話に現を抜かし、子らと未来を裏切ってはならない。未来を展望した恩返しをしたい(※)。

さあ、大きな笑顔で輝いて参りましょう。

感謝

(※)参考:「流れのままに」2005年9月8日 品性の豊かさ
Andrew Ccarnegi
※アンドリュー・カーネギー(1835〜1919)