イェイツ(1865〜1939)のように、年輪を重ねるに従い生命(いのち)に力が増してくるのを覚える方は少なくないであろう。同年の友人・知人との会話ではしきりに体力と精力の衰えを嘆いてみせるが、それを伝える言葉にはツヤがあり、「若さ」という柵(しがらみ)から解き放たれているのは隠すことができない。自然、会話に元氣と勢いが備わっている。「恋愛」という柵からも自由になった人が持つ粘り強さでもある。

魂を喜ばせるために肉体が傷つくのではなく、
おのれに対する絶望から美が生まれるのではなく、
真夜中の灯油からかすみ目の智慧(ちえ)が生れるのでもない、
そんな場所で、労働は花ひらき踊るのだ。
おお、橡(とち)の木よ、大いなる根を張り花を咲かせるものよ、
おまえは葉か、花か、それとも幹か。
おお、音楽に揺れ動く肉体よ、おお、輝く眼ざしよ、
どうして踊り手と踊りを分つことができようか。

Labour is blossoming or dancing where
The body is not bruised to pleasure soul,
Nor beauty born out of its own despair,
Nor blear-eyed wisdom out of midnight oil.
O chestnut-tree, great rooted blossomer,
Are you the leaf, the blossom or the bole?
O body swayed to music, O brightening glance,
How can we know the dancer from the dance?
『対訳 イェイツ詩集』高松雄一編(岩波文庫・760円+税)の240〜241頁より引用
イェイツ

閑話休題(それはさておき)

一昨日の夕方、ワイフから三越まで迎えにきてくれるかと連絡があった。すぐには行けなかったので少し待てるかと尋ねると、「Yes」の返答を得た。思ったよりも早く着いたので車を停め、道行く人々を遠目に眺めていると寿司が食べたくなった。だから彼女を乗せるとマグロが旨い寿司屋に車を走らせた。だが、満席。そこで、マグロは止めにしてTさんの料理を食べにこうと提案すると、「そうですね。いいわね!」と明るく返ってきた。そうだろう、彼女は生のマグロを口にしない。苦手なのだから。

Tさんの料理屋はカウンター6席のみで実に瀟洒。私たちは最初の客であった。「すまないけど、こちらへお願いします」と右翼に案内され。この後お客さんが来ることを予感させた。ワイフは生ビール、私はウーロン。ドライバーであるから当然だ。突き出し(お通し)は、本マグロの和え物であった。Got it!旨い。私の空いた器は、彼女の満たされた器に置き換えられた。

そこへ男女のカップルが入店する。男の姿を見て、15年前、10年ぶりに日本に帰ってきた時のことを想い出した。JR札幌駅の改札を出たところで、小走りにぶつかってきた男は跳ね返り、ひとり見事にコロコロと転がるのであった。翌朝、ホテルの部屋でテレビのスイッチを入れると地元の情報番組に彼がコメンテーターとして出演していて、作家だと知った。今、彼の作品が『探偵はバーにいる』http://www.tantei-bar.com/というタイトルで映画化され上映されている。おめでとう!

「15年前、貴方にぶつかって来られた者です」という自己紹介は野暮なので止めにして、黙(だんま)りを決め込んだ。ワイフは彼が何者か最後まで知ることはなかった。4人の客は互いのパートナーと静かに会話しながら食事を楽しむのであった。Tさんも静かに料理をつくってくれた。いつもありがとう。

帰宅するとマダムUtakoから21日の彼女のモロカン・ランチがこちらhttp://www.orangepage.net/diary_guest/1109b/index00.htmlに掲載されたと知らせがあった。陽氣を感じる素敵な集いである。どの階層に暮らそうとも、ご婦人たちは実に逞(たくま)しく、頼もしい。

若い頃モロッコで過ごした日々を想い、今日は北アフリカにおけるモロッコの歴史を紐解くことにしたい。

時を経て叡智(えいち)が訪れる
木の葉は数多くても幹は一つ、
偽りの青春の日々がつづくあいだ、
私は陽光を浴びて葉と花を揺すらせた。
いまは真理の中へ凋(しぼ)んでゆくか。

The Coming of Wisdom with Times
Though leaves are many, the root is one;
Through all the lying days of my youth
I swayed my leaves and flowers in the sun;
Now I may wither into the truth.
(詩集92〜93頁より引用)

良き日々を

感謝
伏見稲荷神社
※伏見稲荷神社@散歩道※