刑事裁判には「疑わしきは罰せず」(in dubio pro reo)又は「疑わしきは被告人の利益に」(in doubt, for the accused)という原則がある。これは、刑事裁判においては検察側が挙証責任を負うが、被告人が不利な内容について被告人側が合理的な疑いを提示できた場合には被告人に対して有利に(=検察側にとっては不利に)事実認定するということ。日本の再審では1975年の「白鳥決定」からこの原則。それ以前は、真犯人が名乗りでない限りは裁判をやり直す再審請求は叶わぬ願いであり、開かずの扉とも呼ばれていた。「袴田事件」では、科学捜査の一部であるDNA鑑定の精度向上と刑事訴訟法の改正による法運営のあり方の変化が寄与した。

本件は1966年6月に発生した、静岡県清水市(当時)のみそ製造会社専務及びその家族計4人が全焼した家屋から遺体で発見された事件。すべての遺体に多くの刺し傷あとが認められ、県警察本部は8月、社員の袴田巌氏(当時30歳)を強盗殺人および放火などで逮捕した。9月に静岡地方検察庁が静岡地方裁判所(1審)へ起訴し、68年9月に死刑判決が下された。袴田氏は初公判から起訴事実を全面否認。東京高等裁判所への控訴、最高裁への上告を行うが、76年5月に控訴が棄却、80年11月に上告が棄却され、彼の請求は受け付けられずに、死刑判決が確定した。地裁段階から、袴田氏は冤罪ではないのかという声が上がり、確定後も裁判のやり直しを求め続けた結果、昨日の裁判のやり直しを認める決定を手にした。

1審では捜査で取られた自白調書45通のうち44通を取り調べに違法性があると断じて証拠採用しなかった。日本国憲法は「強制,拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留 若しくは拘禁された後の自白は,これを証拠とすることができない」(38条2項)、「何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない」(38条3項)としており、1審判決は「強制的、威圧的な影響を与えており任意性がない」「極めて長時間にわたり」「取り調べ、自白を得ることに汲々として、物的証拠に関する捜査を怠った」と非難した。しかし検察側が出してきた「5点の衣類」という証拠により、「自白がなくても有罪は明らか」としてしまう。控訴審ではズボンが着目され、弁護側の「小さすぎて被告にははけない」という検証・確認に対し、検察側は「ズボンはみそに漬かっていたので縮み、被告も太った」と対抗した。妙なことだが、高裁・最高裁ともに弁護側の主張を退け、検察側の主張を認めたのであった。

白半袖シャツ右肩に付着したB型血液が袴田氏のものと一致するかどうかも争点となった。1981年からの第1次再審請求で「鑑定不能」とされたDNA型鑑定の精度は、「1000人に1.2人」別人の可能性を示すレベルであった。しかしながら、2008年からの2次再審請求の頃には、「一致」が別人である可能性は4兆7000億分の1までの精度になっていた。弁護側推薦の鑑定人が「一致しない」と判定できるほどにDNA鑑定の精度は向上していた。だから検察側推薦の鑑定人も「完全一致するDNA型は認められない」とした。

裁判員制度の導入をにらみ、刑事裁判の充実・迅速化を図るため、2005(平成17)年11月の改正刑事訴訟法施行で公判前整理手続が導入され、刑事訴訟法316条の2以下に規定された。裁判員制度では対象となる刑事裁判全てがこの手続に付される。この法改正により弁護側も検察が持つ証拠を開示できる権利が認められた。本件では、袴田氏の供述や元社員の証言など新たな証拠が開示された。

本件を契機として、死刑制度の在り方を再考したい。死刑が執行されてから、間違いと氣づいても時すでに遅し。国家権力が無実の罪を誰かに着せることはあってはならない。
袴田事件の再審認める「証拠ねつ造の疑い」
(NHK 3月27日 12時10分)
 昭和41年に静岡県で一家4人が殺害されたいわゆる「袴田事件」で、静岡地方裁判所は死刑が確定していた袴田巌元被告の再審=裁判のやり直しを認める決定を出しました。
 また、裁判所は「捜査機関が証拠をねつ造した疑いがあり、無実の人を陥れて長期間拘束を続けたことになる」と当時の捜査を厳しく批判し、釈放を認める異例の決定を出しました。
 昭和41年、今の静岡市清水区でみそ製造会社の専務の一家4人が殺害された事件では、当時、会社の従業員で強盗殺人などの罪で死刑が確定した袴田巌元被告(78)が無実を訴え、弁護団が再審=裁判のやり直しを求めてきました。
 最大の争点は事件の1年2か月後に現場近くのみそタンクで見つかり、判決で元被告が着ていたと認定された「5点の衣類」が本人のものかどうかという点でした。
 決定で静岡地方裁判所の村山浩昭裁判長は「元被告が犯行時に着ていたとされた、シャツの血液が、本人のDNAと一致しないという鑑定結果は信用できる。ズボンはサイズが合わない可能性があるほか、衣類の色も長期間みその中に隠されていたにしては不自然だ」と指摘しました。
 そして「犯行に使われたとされた衣類は、捜査機関によるねつ造の疑いがある」と結論づけて再審を認める決定を出しました。
 また、裁判長は「人権を顧みることなく元被告を犯人として追及し、無実の個人を陥れて、長期間、拘束を続けたことになる」と当時の捜査を厳しく批判したうえで、「これ以上の勾留は正義に反する」と指摘して、袴田元被告の死刑の執行と勾留を停止し、釈放を認める異例の決定も行いました。
 静岡地方裁判所が再審の開始を認める決定を出したことについて、静岡地方検察庁の西谷隆次席検事は「予想外の決定であり、本庁の主張が認められなかったのは誠に遺憾である。上級庁とも協議のうえ、速やかに対応したい」と話しています。
 また、静岡県警察本部は「決定内容を聞いていないのでコメントは差し控えさせていただく」と話しています。

死刑囚の再審認める決定は6件目
 死刑囚の再審を認める決定は、9年前・平成17年の、いわゆる「名張毒ぶどう酒事件」以来、6件目です。
 死刑が確定した事件で初めて再審が認められたのは、昭和25年に香川県で63歳の男性が自宅で殺害されて金が奪われた「財田川事件」です。
 その後も、昭和23年に熊本県で夫婦2人が自宅で殺害された「免田事件」。
 昭和30年に宮城県で住宅が全焼して一家4人が遺体で見つかった「松山事件」。
 昭和29年に静岡県で当時6歳の女の子が連れ去られて殺害された「島田事件」があります。
 この4つの事件は裁判をやり直した結果、いずれも無罪の判決が言い渡されました。
 一方、昭和36年に三重県で女性5人が殺害された「名張毒ぶどう酒事件」は、平成17年にいったん再審を認める決定が出た後、別の裁判官が取り消しています。
 この事件については、その後再審を認めない判断が最高裁判所で確定したため、弁護団が新たに再審請求を行っています。

再審認められるケース相次ぐ
 ここ数年、科学的な鑑定や新たに開示された証拠が決め手となって殺人など重大な事件で再審が認められるケースが相次いでいます。
 このうち、無期懲役が確定した事件では平成17年に茨城県で1人暮らしの男性が殺害された「布川事件」で男性2人の再審が認められたほか、平成21年には栃木県で当時4歳の女の子が殺害された「足利事件」で再審が認められました。
 そして、おととしには平成9年に東京電力の女性社員が殺害された事件で、ネパール人の男性に対する再審が認められ、いずれもやり直しの裁判で無罪が確定しています。
 足利事件と東京電力の女性社員が殺害された事件では、新たにDNA鑑定が行われて別人のDNAと判明したことが大きな理由となりました。
 また、布川事件では検察が開示していなかった無罪をうかがわせる当時の証言が明らかになったことなどが再審の決め手となりました。

死刑囚の勾留停止は初めて
 死刑が確定した事件について再審開始決定の段階で、死刑囚の勾留を停止し、釈放を認める判断を裁判所が出したのは今回が初めてです。
 法律では再審開始の決定をしたときには裁判所は刑の執行を停止することができると定められています。
 しかし、死刑囚の場合、停止する対象は死刑の執行で、勾留については明確な規定がありません。
 これまで確定した死刑判決が再審で無罪となった4つの事件でも勾留されていた人が拘置所から出たのは再審の裁判で無罪判決が言い渡されたあとでした。
 今回、裁判所が「これ以上、勾留を続けることは耐え難いほど正義に反する」と強い姿勢を示し、袴田被告の釈放を裁量で認めた決定を検察が受け入れるのかどうか焦点となります。http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140327/k10013280161000.htmlより転載

本件発生の直後、警察は「ボクサー崩れで身持ちも悪く、妻と別居中」の袴田氏に目をつけたという報道があった。それを正当化するためにDNA鑑定(科学捜査)という演出が行われた。本来は、そのような警察の捜査(操作)姿勢に、ジャーナリストは懐疑の精神を発揮すべきであった。警察・マスコミ・検察・裁判所の協働関係がみえてくる。警察は問題ある逮捕をし、マスコミは逮捕を疑問視することなく報道し、検察は起訴し、裁判所は死刑の判決を出した
再審決定「KO勝ち」=袴田事件でボクシング関係者
(時事 2014/03/27-11:46)
 袴田事件で再審開始が認められたのを受け、元プロボクサー袴田巌死刑囚(78)を支援していたボクシング関係者は「KO勝ちの気分だ」と喜びを爆発させた。

再審開始「予想外」=袴田事件で静岡地検
 日本プロボクシング協会は支援委員会を設置し、署名活動を行うなど同死刑囚を支援。後楽園ホールのリングサイドに「袴田巌シート」を設け、釈放されたら観戦できるようにしている。
 ボクシングの元世界ジュニアミドル級王者輪島功一さん(70)は静岡地裁で「やったねという気持ち。袴田さんをボクシング会場に連れて行きたい。気持ちを高揚させてほしい」と顔を紅潮させて語った。
 同協会の支援委員を務める真部豊さん(45)も再審決定を見届け、「瞬間まではどきどきしたが、KO勝ちした気分。シートに座ってもらう日が目の前に見えてきて興奮している」と語った。http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2014032700372より転載

大きな笑顔で邪氣を払って参りましょう

SunSunの朝陽を浴びながら

感謝
真珠