「技術的問題を解決するためには美的観点からも納得のいくものでなければならない」をモットーにしたフェルディナント・ポルシェ博士(1917年にウィーン工科大学から名誉博士号)が泣いている。日本では「カブトムシ」と呼ばれたタイプ1(Type 1 )は、ドイツの自動車メーカー・フォルクスワーゲン(VW)によって製造された小型自動車で、四輪自動車としては世界最多の累計生産台数2152万9464台(1938〜2003)の記録を打ち立てた。その設計者がポルシェ博士だ。65年間に渡る製品寿命を保った四輪乗用車は史上、類を見ない。現在もVWはドイツ最大の自動車メーカーであり、国内の雇用者数は27万人を超え、部品納入業者も加えればさらにその数は増える。その会社が、排ガス規制を逃れるため、ディーゼル車に不正なソフトウエアを搭載。不正なソフトが実際に稼働する特定のエンジンを積んだ車両は、世界で約1,100万台に上っている。この技術への冒涜はVW存続の危機を招いただけではなく、ヨーロッパ随一のドイツ経済にとって最大の脅威となる。

ドイツは第2次世界大戦後、移民国として発展してきたが、民族と宗教の対立をその内部に抱えることにもなった。旧ドイツ領土から強制的に追放された人々やその子孫には、「帰還移住者」としてドイツ国籍を付与。1970年代まで続いた奇跡の経済復興期には、トルコなどから多くの外国人労働者及びその家族らを呼び寄せた。政治的に迫害を受け、庇護を求める難民も積極的に受け入れてきた。ドイツの全人口8213万5000人のうち1556万7000人(2008年)が「移民の背景」を持つ住民。実に5人に1人の割合だ。「移民の背景」(Migrationshintergrund)を持つ人とは、ドイツに居住している外国人、ドイツで生まれた外国人、ドイツ国籍取得者、帰還移住者、両親のうち少なくともどちらか一方がこれらに該当する人の総称。“ドイツ人”と比較調査する便宜上、2005年からこの呼称が使われるようになった。移民の背景を持つ人の過半数(829万7000人)がドイツ国籍を取得している。ドイツ語が分からない、就労に十分な教育を受けていない等で就職できない移民は、生活保護を受けて生活する者が多い。加えて、移民(男性)による犯罪率が高い。他には、女性差別(名誉殺人や強制結婚)も社会問題となっている。また、公的年金の受給開始年齢は段階的に67歳に引き上げられ、派遣で働く人は増え、保険料は値上がりし、今後はどうなるか分からない…。そんな不安を覚えるドイツ人は多いようだ。

「技術立国」「環境大国」を自負してきたドイツを代表する企業・VWの不正は、今日まで最先端技術を競い合ってきたドイツ語圏(ヨーロッパ)・英語圏(合衆国)・日本語圏(日本列島)の三極からのドイツ文化を中心としたヨーロッパの脱落を示唆する。ドイツ国内に今回の事件で「激震が走っている」と報道されている深層に、天職に実直な誇り高き本流のドイツ人たちのこの退場への歎きを知る人は少ない。

日本では明治時代よりドイツに憧れ、ドイツを正面教師とする向きもある。しかしながら、戦後のドイツを知ったなら、私たち日本の民衆の反面教師として、してはいけないことやtrapを学ぶことができる。


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