年間約27億円を札幌ドームに支払う日本ハムファイターズ(日ハム)は赤字経営なのに、札幌ドームは黒字という歪(いびつ)な関係が長年続いている。この関係をブレイクスルーするには、日ハムの収入源を増やすこと、つまりチケット収入以外にも飲食やグッズ販売での収入増加が望まれる。しかしながら、現状が改善される兆しはないようだ。日ハムがボールパーク化戦略を実現するには、自前の球場を持たねばならないのだろうか。

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日ハムの球団経営を圧迫する旧態依然の壁
(文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)
日ハムの問題
 北海道日ハムが悩まされている問題がある。
 日ハムが本拠地としている札幌ドームが、この4月1日から使用料の値上げに踏み切ったのだ。消費税分の値上げだが、1試合の使用料が4万人の動員でおよそ1600万円に設定されているのでオープン戦も含め年間に70試合ほど使用し、この料金だけで9億円ほど支出していることを考えればバカにならない金額である。
 札幌ドームは2001年に開業、2004年から日ハムが東京ドームから本拠地を移転してきた。施設は札幌市が所有し、札幌市と道内財界各社が出資する第三セクター・株式会社札幌ドームが運営管理を行っているが、出資比率から考えると、実質、札幌市が運営している自治体の“ハコモノ”である。
 問題は、この基本使用料だけではなかった。日ハムはドームがコンサートやイベントなどで使用される度に日ハム側が資金を出したフィールドシートの撤去、設置を余儀なくされ、ドーム内のトレーニング施設の器具なども、すべて片づけなければならない。それらの経費だけでなく、警備費、清掃代なども球団持ちで基本使用料とは別に年間15億円ほどをドーム側に支払っている。しかもドーム内の飲食店の運営、売上げは、すべてドーム側。グッズに関しても、広島のような直営ではなくドームに卸す形態。また広告看板代に関しても球団が、2億5000万円で買い取っている。つまり年間、約26億5000万円をドーム側に支払っていることになるのだ。日ハムの年俸総額は、27億円超。ドームにかかる費用と、ほとんど変わらない。
 ある関係者が言う。

「極端な話を言えば、ドーム側が理解を示してくれれば、球団経営は本当の意味で黒字化して、ダルビッシュや糸井を簡単に出さなくて済んだのかもしれない。もっとチーム強化にもお金をかけられる」

 実は日ハムは、本社からの年間27億円に至る広告宣言費の補填を受けているが、このお金がなければ、単体では赤字経営である。その経営を圧迫しているのが、この球場問題なのだ。
 ダルビッシュ有のポスティング移籍を認めたのは、本人の強い希望を受け入れたものであるが、年俸が高騰するダルビッシュを経営上、保持しにくくなっていた側面もある。球団単独での経営が厳しいのに、一方、ドーム側は黒字だというのだから、何をか言わんである。
 これまでも日ハムは、何度となく公式、非公式に使用料の値下げや運営権の一部譲渡を札幌ドーム側に訴えてきたが、すべてノー。しかも今回は、それらの要望を聞くどころか逆に値上げである。
 スポーツビジネスの原則は、利益が出れば、それをチーム強化や顧客満足度をアップするための施設などへの投資に使い、ファンへ利益を還元するもの。ソフトバンクの孫オーナーは、ハッキリとその方針に基づき、積極補強を仕掛けていることを公言している。日ハムは、独自の育成ノウハウシステムを持っていて、FAや高額な外国人補強には手を出さずにドラフトを軸に若手を育てるという堅実なチーム強化を行い、Aクラスを維持している。それは大きく評価されるべきものだが、ドームとの関係が改善し、経営が健全化すれば、チーム強化も、勝敗に左右されることなく球場動員につなげるための、球場の内外の施設充実やサービス向上に対しても、積極的な投資を行うことが可能になるのだ。
 その象徴例が楽天だろう。5月に約2億円の総工費をかけて、本拠地、コボスタ宮城に球界初の観覧車がオープンした。高さ36メートルで左中間に隣接するエリア「スマイルグリコパーク」内に設置されて、別途乗車料金400円が必要だが、試合観戦も可能。ゲームがなくても球場近辺にくれば、休日が楽しめる「ボールパーク化構想」の一端。この大胆な開発が可能になっているのも、行政と球団が協力関係を築き、ウインウインの良好な関係にあるからだ。
 2004年に起きた球界再編の折、球場と球団の歪な関係がクローズアップされた。ここが、長らくセ、パの格差を生み日本のプロ野球の発展を妨げてきた問題だった。莫大な球場使用料、チケットの売り上げからの吸い上げだけでなく、球場の飲食やスポンサー看板代などすべてが球場の収入となり、改装なども自前では行わない。球団は赤字なのに球場は黒字という異常現象が長年続いていた。しかし、この球界再編問題以降、日ハムを除いた11球団では、歪な関係が徐々に解消されている。
 新参入の楽天も、当時の宮城県知事の浅野知事に協力を求め、球団が旧県営宮城球場の改修費用を全面負担して、施設を県に寄付する形で、都市公園法に基づく管理、運営権を譲渡された。今回の観覧車の増設も含め、すべて楽天が予算を組んで行い、宮城県に寄付をするという形態が取られた。しかも、年間の使用料も、札幌ドーム35分の1程度に抑えられた。
 日ハムと同じく行政からの“間借り”の球団は、前述した楽天に広島、ロッテの3球団。ロッテは2006年に千葉マリンスタジアムの指定管理者になったことで、管理、運営権を得て、球団の年間売り上げは、その後4倍強に増加した。09年にオープンしたマツダスタジアムは、広島市の所有で球団が使用料とは別に市へ10年間で21億円強を納めるが、球場の管理、運営権は得ている。そのため、バーベキュー席などユニークな仕掛けがいくつも施され、今ではスタンドが真っ赤に染まる。グッズ収入も右肩上がりだ。独立採算制の広島が、黒田博樹の凱旋帰国を実現できたのも、球場ビジネスの成功がバックにある。

 球団のグループ会社などが所有権を持ち運営する“自前の球場”を持っているのは、巨人、阪神、中日、西武、オリックス、ソフトバンク、そして、今回、球場のM&Aに成功した横浜DeNAの6球団だ。横浜も経営権がDeNAに移る前までは、チケット売り上げの26パーセントを球場側がとっていて、球場は黒字なのに球団が赤字というアンバランスな経営形態が続いていた。TBSの身売り後、DeNAが経営権を得てから、交渉の末、チケットからの取り分は、半分の13パーセントに抑えられたが、飲食などの売り上げは取られ、契約の隙間をすり抜けるアイデアで、ワゴン販売などを導入するなど工夫をしたが、球場ビジネスに関する企業モチベーションは上がらず、観客動員を飛躍的に増やしても、赤字経営からは抜け出すことができなかった。
 だが、球場の経営権をM&Aで取得したことで経営ビジョンは大きく変わった。早速、球場内の様々な独自メニューやクラフトビールまで発表したのは、やればやるだけ実入りとなるからで、球場と球団の一体化経営のたまもの。なにより、ファンも観戦時の楽しみが増え、重要なファンサービスが充実していくことになる。横浜DeNAには、壮大なボールパーク構想があって、今後、球場も斬新なものに生まれ変わる。
 日ハムも、メジャー式の営業ノウハウは持っていて、本来ならば、球場、球場周辺の開発も含めたボールパーク化計画を進めたいのだが、実質、行政が持っているドームの旧態依然とした“官僚的な壁”にぶつかって、球場の改装も球団主導では進まず、せっかくのノウハウを使うに使えないのが実情。メジャー型のボールパーク化へのトレンドからは立ち遅れている。そして球団経営さえ圧迫されている。
 人が集まれば、行政にも、はかりしれないプラス面が生まれ、なにしろ、球団と一体になって、地域のスポーツ文化を創生することにつながるのだが、今のところ官僚体質を脱皮できず、温度差は大きい。今後も球団と札幌ドームの間で協議が続けられていく方向だが、このままドーム側の理解を得られないのならば、最悪のケース、日ハムが“重大な決断”を下しても不思議ではないだろう。
https://thepage.jp/detail/20160422-00000004-wordleafsより
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参考:MLBが目指すボールパーク化戦略。サービスの品質を決めるものは何か。(2013/06/25)

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