青空文庫@幸田露伴の「努力論」より。
 惜福とは何樣(どう)いふものかといふと、福を使ひ盡し取り盡して終(しま)はぬをいふのである。たとへば掌中に百金を有するとして、之を浪費に使ひ盡して半文錢も無きに至るがごときは、惜福の工夫の無いのである。正當に使用するほかには敢て使用せずして、之を妄擲浪費せざるは惜福である。吾が慈母よりして新たに贈られたる衣服ありと假定すれば、其の美麗にして輕暖なるを悦びて、舊衣猶ほ未だ敝(やぶ)れざるに之を着用して、舊衣をば行李中に押まろめたるまゝ、黴と垢とに汚さしめ、新衣をば早くも着崩して、折目も見えざるに至らしむるが如きは、惜福の工夫の無いのである。慈母の厚恩を感謝して新衣をば浪(みだ)りに着用せず、舊衣猶未だ敝れざる間は、舊衣を平常の服とし、新衣を冠婚喪祭の如き式張りたる日に際して用ふるが如くする時は、舊衣も舊衣として其の功を終へ、新衣も新衣として其の功を爲し、他人に對しても清潔謹嚴にして敬意を失はず、自己も諺に所謂『褻(け)にも晴にも』たゞ一衣なる寒酸の態を免るゝを得るのである。是の如くするを福を惜むといふのである。
 樹の實でも花でも、十二分に實らせ、十二分に花咲かす時は、收穫も多く美觀でもあるに相違無い。併しそれは福を惜まぬので、二十輪の花の蕾を、七八輪も十餘輪も摘み去つて終ひ、百顆の果實を未だ實らざるに先立つて數十顆を摘み去るが如きは惜福である。花實を十二分ならしむれば樹は疲れて終ふ。七八分ならしむれば花も大に實も豐に出來て、そして樹も疲れぬ故、來年も花が咲き實が成るのである。
 『好運は七度人を訪ふ』といふ意の諺が有るが、如何なる人物でも周圍の事情が其の人を幸にすることに際會することは有るものである。其の時に當つて出來る限り好運の調子に乘つて終ふのは福を惜まぬのである。控へ目にして自ら抑制するのは惜福である。畢竟福を取り盡して終はぬが惜福であり、又使ひ盡して終はぬが惜福である。十萬圓の親の遺産を自己が長子たるの故を以て盡く取つて終つて、弟妹親戚にも分たぬのは、惜福の工夫に缺けて居るので、其の幾分をば弟妹親戚等に分ち與ふるとすれば、自己が享けて取るべき福を惜み愛(いつく)しみて、之を存留して置く意味に當る。これを惜福の工夫といふ。即ち自己の福を取り盡さぬのである。他人が自己に對して大に信用を置いて呉れて、十萬圓位ならば無擔保無利息でも貸與して呉れようといふ時、悦んで其の十萬圓を借りるのに毫も不都合は無い。しかし其は惜福の工夫に於ては缺けて居るのであつて、十萬圓の幾分を借りるとか、乃至は或擔保を提供して借りるとか、正當の利子を拂ふとかするのが、自己の福をば惜む意味になる。即ち自在に十萬圓を使用し得るといふ自己の福を使ひ盡さずに、幾分を存留して置く、それを惜福の工夫といふものである。儉約や吝嗇を、惜福と解してはならぬ、すべて享受し得べきところの福佑を取り盡さず使ひ盡さずして、之を天と云はうか將來といはうか、いづれにしても冥々たり茫々たる運命に預け置き積み置くを福を惜むといふのである。


閑話休題(それはさておき)


ビットコインの価格の乱高下は織り込み済みで、政府または金融当局の関わり方により、今後もスピーディーに価格変動(Volatility:ボラティリティー)は大きくなる。2017年が始まって9日目だが、ビットコインに限らず、今後はボラティリティーとそのスピードに一喜一憂していたのではこの時代に呑み込まれてしまう。一喜一憂とは、状況の変化などちょっとしたことで喜んだり不安になっ たりすることや、まわりの状況にふりまわされることを言う。
中国人民銀、ビットコインへの慎重な投資要請 「異常な値動き」
(ロイター 2017年 01月 6日 21:31 JST)
中国人民銀行@ビットコイン
1月6日、中国人民銀行(中央銀行)は、ビットコインなどの仮想通貨への投資で個人や機関投資家に慎重な行動を取るよう求めた。写真は香港で2014年2月撮影(2017年 ロイター/Bobby Yip)
[北京 6日 ロイター] - 中国人民銀行(中央銀行)は6日、ビットコインなどの仮想通貨への投資で個人や機関投資家に慎重な行動を取るよう求めた。
 人民銀の上海支店は、ビットコインの値動きは異常とする通達を出した。
 同支店の担当者は中国のビットコイン取引所「BTCC」の幹部と会談し、事業運営のリスクを指摘したほか、法に基づく「自己点検」を行うよう求めた。

ビットコインが急落 人民元上昇で「パニック売り」
(日経 2017/1/6 12:03)
 インターネット上の仮想通貨ビットコインの価格が5日夜、急落した。取引シェアの大半を占める中国では一時、直近の最高値から3割近く下落した。資本の海外逃避に神経をとがらせる中国の通貨当局が資本規制を強めたことで、5日の上海外国為替市場で人民元が大幅に上昇。資産拡大のためにビットコインを買っていた中国の個人らが慌てて人民元の買い戻しに走ったためとみられる。
 中国の大手取引所の1つであるOKコインでは5日夜にビットコインの価格が一時857ドル(約9万8555円)に急落した。夕方に1174ドルと最高値を更新していた後の急落だ。
 影響は日本の取引所にも及ぶ。国内取引所大手のビットフライヤー(東京・港)では5日午後に15万円と最高値を更新していたが、中国での急落を受けて同日夜には11万円を下回った。
 中国では急落後に徐々に値を戻し、6日午前に1000ドル台を回復したものの、その後は再び下げている。日本では13万円近くまで回復した。
 投資商品が少ない中国では、個人を中心にビットコインを買う動きが広がっていた。特に昨秋の米大統領選後のドル高・人民元安以降、リスク回避から人民元で購入したビットコインをドルなどの外貨に換える個人が増えていた。中国の取引シェアは世界の9割を占めるとされる。
 ただ、中国当局は資本の海外流出に警戒感を強めており、これまで企業を中心にしていた規制強化の対象を個人にも広げ始めている。こうした動きを受けて、上海外国為替市場で人民元の対米ドル相場は5日に約1カ月ぶりの元高水準をつけた。
 中国人民銀行(中央銀行)は6日、人民元売買の基準値を対米ドルで2日連続で元高方向で設定している。今後もビットコイン相場が人民元の動きと連動していくかに関心が高まりそうだ。

参照: 流れのままに 「新通貨発行+α」(2016年06月28日)

『樹の實でも花でも、十二分に實らせ、十二分に花咲かす時は、收穫も多く美觀でもあるに相違無い。併しそれは福を惜まぬので、二十輪の花の蕾を、七八輪も十餘輪も摘み去つて終ひ、百顆の果實を未だ實らざるに先立つて數十顆を摘み去るが如きは惜福である。花實を十二分ならしむれば樹は疲れて終ふ。七八分ならしむれば花も大に實も豐に出來て、そして樹も疲れぬ故、來年も花が咲き實が成るのである。』という惜福の心こそが、出来事や環境に一喜一憂しないベースであり、私たちの社会と未来を育む源だと思った。


大きな笑顔の佳き祝日を