函館出身の奥平康弘先生の『治安維持法小史』を読んだのは高校生の頃であった。本書は1925年制定の治安維持法がいかに運用され、敗戦後までの20年間にどう変容していったかを教えてくれた。法の拡張解釈や恣意的な運用、そしてその背景にあった「国体」概念を分析している。大戦前の社会を知ることができる良書。

同法が稀代の悪法とみなされた原因の一つは、目的遂行罪にある。それは治安維持法の1928年改正で第1条に登場した条項。25年法では「国体ヲ変革スルコトヲ目的トシ」た結社のメンバーをただ組織のメンバーであると言うだけで検挙し重罰を科す法律として制定された。しかし、当局の見込みに反して、その対象者は少数に留まった。そこで「国体ヲ変革スルコトヲ目的トシ」た結社・共産党の周りにいる広範なシンパ層を一網打尽に取り締まるために目的遂行罪が編み出された。この規定により、共産党員でなくとも党の「目的遂行ノ為ニスル行為」をなしたと認定されれば、逮捕でき2年以上の懲役を以て問擬することが可能となった。この条項こそが治安維持法による取り締り対象を拡大。文学・演劇活動そしてそれらの資金カンパに至るまで「目的遂行(目遂)」は広がっていった。ついには、この条項は多くの著名な知識人や文化人をターゲットにし始め、普通の人々の生活を大いに萎縮させた。このような同法の構造機能が、戦争反対を叫ぶ人々の精神を圧殺し、日本社会を戦争へ牽引する暴力装置ならしめた。

わが日本の歴史を勉強して多少でも治安維持法への恐怖心が芽生えたならば、「テロ等準備罪」は容認できない。無知によって“暴力装置としての法”を再生してはいけません。
「共謀罪」法案 テロ以外が6割 テロ等準備罪内訳判明
(東京新聞 2017年2月26日 朝刊)
 犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」と趣旨が同じ「テロ等準備罪」を創設する組織犯罪処罰法改正案の対象犯罪の内訳が判明した。対象とするとみられる二百七十七の犯罪を「テロの実行」「薬物」など五つに分類。政府はテロ対策を強調しているが、「テロの実行」関連は百十で四割だった。
 「テロの実行」に分類されているのは、組織的な殺人やハイジャックなどに関する犯罪。そのほか、覚醒剤や大麻の輸出入・譲渡などの「薬物」関連が二十九▽臓器売買や集団密航者を不法入国させる行為など「人身に関する搾取」二十八▽マネーロンダリング(資金洗浄)や組織的詐欺などの「その他資金源」が百一▽偽証や逃走援助などの「司法妨害」が九−となっている。
 一方、二〇〇七年二月に自民党法務部会の「条約刑法検討に関する小委員会」がまとめた修正案では、罪名は今回と似た「テロ等謀議罪」、対象犯罪は百二十八〜百六十二としていた。
 分類は「テロ犯罪」(七十三)、「薬物犯罪」(二十三)、「銃器等犯罪」(十)、「密入国・人身取引等犯罪」(八)、「その他、資金源犯罪など、暴力団等の犯罪組織によって職業的または反復的に実行されるおそれの高い犯罪」(十四〜四十八)となっていた。
 青山学院大大学院の新倉修教授(国際刑事法)は「政府はテロ対策を強調するが、対象犯罪はテロ以外の方が多い。政府が『テロの実行』に分類したとしても、それが本当にテロ対策だけに適用されるのか、具体的罪名ごとに対象に含める是非を判断する必要がある」と指摘。
 その上で「対象犯罪を絞ったように見えるが、自民党は十年前にもっと絞っていた。そもそも現行法でも爆発物使用の共謀罪はあるし、殺人など重大な犯罪には予備罪・準備罪があるので、現行法や法改正で十分対応できる」との見方を示した。
共謀罪」法案